エンケラドゥスの海

みなさま、暑中お見舞い申し上げます。

ちいさなおともだちは、みんな夏休みを楽しんでますか?
絵日記も毎日ちゃんと書いてるかな?

おおきなおともだちも、早い子は夏休みのとっているようですね。

夏は思い出の季節。
海に山にとお出かけ出来る人は、もちろん、そうでない人も
それぞれの夏をごりごり楽しんでいきましょう。

僕は、昨日、今日とエンケラドゥスの地底海でダイブしてきました。
予算もなかったので、土星のタイタンまではインド航宙のチャンドラ二世号の2等船室でしたが、思ったより空気もきれいで快適でした。

タイタンのステーションからは、現地のシャトルでエンケラドゥスまでおよそ4時間。
Eリングが近づいてくると、窓の外を横切る氷(といっても見た目岩石)も増えてきて、結構ビビりましたが、スリリングで楽しかったです。

エンケラドゥスでは、現地のダイバーの案内で沈没船までダイビング。

こういう沈没船はわざと沈めたものが多いのですが、この沈没船「マオ・ツォートン号」は、23世紀初頭のレア戦役時のグレートチャイナの豪華客船だったそうです。
普通の船ならエンケラドゥスの外殻に落ちても、この地底海までは辿り着かなかったでしょう。バラバラになったとはいえ、こうして形を残しているのは、さすがチャイナ製です。

地元のエンケラドゥス人がいうには、彼らはマナーがあまりにも悪く、身勝手だったので、エンケラドゥスの神様の怒りをかって、間欠泉の直撃を受けたとのことです。

沈没後、200年は経っていますが、一部の動力はまだ生きているようで、船の中には明かりが見えていました。恐る恐る、窓から中を覗くとドロイド達が、物言わぬ着飾ったご婦人の世話をしていました。
きれいに整えられたその姿は、200年前の惨劇を微塵も感じることはなく、まるで今にもこちらを振り向くかのようでした。

その時が止まったかのような光景に見入っていると、若いダイバーのピョルティッカが
「・・ニッポンジンガ、イチバン、イイヒトヨネ。」
と言いました。

一瞬、えっ?と思いましたが、すぐにその意味が分かりました。
ピョルティッカは、日本製のドロイドを日本人だと勘違いしていたのです。
無理もありません、ドロイドの胸には大きく「がんばろう!にっぽん。」とステッカーがはってあるのですから。
僕は笑いながら、
「うん、そうだね。君の言うとおりだ。」
と答えました。

21世紀末に日本で大量に生産されたソフトパンク社製のペッパー型人型汎用ドロイド「コショウ」は、名前の通り人類の忠実なる「小姓」として1千億台以上生産され、人に代わって多くの仕事を担い、多くの命を救い、宇宙開拓ではエウロパ人やガニメデ人との交渉や交易など、人類が行うべきところまで変わってドロイドらがやってきたのだから、彼らにしてみればドロイド「コショウ」こそ一番身近な日本人なのでしょう。

海から上がり、氷原のコテージで、ぼんやり空を見上げる。
持ってきた「ニッカ」にエンケラドゥスの氷を浮かべて、インスタしてみたが、見た目普通のニッカと変わらなかったので、投稿するのはやめにしました。

もっとも、投稿したところで、ニッカの旨さが分かって「イイネ」をするような日本人は、もう存在しないんじゃないかと思うしね。

300年前、メタンハイドレードの産出大国だった日本は多くの諸外国から労働者として大量の移民を受け入れたため人種・文化の混血が進み、民族としての日本はもうどこにもありません。
日本国土そのものも、大深度の海底を急激に掘削した結果、地殻変動を引き起こし、今は海の中です。

その時生き残った日本人は宇宙に移民しましたが、それが結果的に今の木星・土星圏への人類進出の基盤となったのは、みなさんもよくご存知でしょう。

さて、明日はもうエウロパに帰ります。
帰りの船はちょっと優雅に「HOLY・衞門」号です。
途中、600年に渡り暗礁宙域で人体に有害なパルスを発信しつづける人工天体「JOCX-8」の横を通過するので、僕も日本の古い儀礼に倣って、「三猿」というおまじないをしようかと思います。

みなさんも、いい夏休みをお過ごしくださいね。

2617年7月30日
エンケラドゥスのホテルにて。

2017-07-30 | Posted in ILLUSTRATIONNo Comments » 

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