東京2020大会の猿と蟹

ちょっと気になったので一筆。(※草稿です、あとで文章を整理する可能性があります。)

東京オリンピック2020のマスコットキャラクターの公募が始まりました。
キャラクターを考えるのは楽しいので「応募する・しない」はともかく、どんなものかなと募集要項をダウンロードしてみました。

応募要項には、マスコットのデザインは勿論のこと、キャラクタープロフィール(制作意図と特徴)も含まれ、また立体物制作を前提とした6面図(初めて聞いたわw)まで必要と、提出物に対して事細かな指定があります。
流石にオリンピックともなると、地方のゆるキャラとは違い、何も知らない素人にはちょっとハードルが高そうです。

組織委員会としては、選考の効率化も図り、大まかなふるいをかけるのが当然でしょう。プロ野球のトライアルに4番バッターとは言え、全国のリトルリーグの少年らが応募してきても収拾が付かないのと一緒です。
それでもプロ・アマ含めて相当数の募集があることは間違いありません。
全国に散らばる『絵師』さんや『漫画家』さんにとっては、マスコットの方が応募しやすいので、昨年のエンブレムの応募総数「1万5千点」を超える応募があると充分に予想されます。

まぁ、それはいいとして応募要項を最後まで読み進めていくと、【7】注意事項(続き)のページに「またか」というような1文がありました。
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抜粋:東京2020大会マスコットデザイン母数のご案内(応募要項)P9
「●応募作品の知的財産権等について」より
1.応募者は、その応募作品が最終審査候補作品に決定した場合、当該作品に関する著作権(著作権法第27条および第28条に規定する権利を含みます。)、商標権、意匠権その他の知的財産権(これらを出願する権利や、当該作品を譲渡し、再現し、複製し、出版し、変更し、改変し、修正し、または頒布する権利を含みますが、これらに限られません。)、所有権等一切の全世界における権利を組織委員会に無償で譲渡していただきます。また、当該作品に関する著作者人格権その他一切の人格権を組織委員会およびその指定する者に対して行使しない旨をご了解いただきます。
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またもの著作権譲渡ww
最近のキャラクタービジネス業界では、この「著作権譲渡」がデザイン発注の常套句になっています。著作権の裁判のゴタゴタを予め回避したいという、どこかの無慈悲な鬼畜弁護士でも入れ知恵したのでしょうか?
しかも、法律で「譲渡の出来ない」と保護されているはずの「著作者人格権」も行使しないことを条件にし、承諾することが当たり前の風潮になっています。
むしろ、著作権をきちんと守って、著作者を擁護してくれるような企業や団体の方が少ないかも知れません。

キャラクターは、今やビジネスとして確立しており、日本だけでも市場規模全体としては2兆円を超えます。
多くはマンガやアニメのキャラクターによるところが大きいと思われますが、制作者(社)にとっては、関連グッズ販売から発生するライセンス料も大きな収益源になります。
通常、知的財産権のロイヤリティは低いものでも販売価格(上代)の3%〜5%前後となり、商品が売れた分の収益が永続的に続くので経営を安定させる意味でもロイヤリティ収入は重要です。

個人でキャラクターをデザインした場合には、なおさらです。
船橋市非公認キャラクターの「ふなっしー」は2013年のグッズの売り上げだけで8億円ほどありましたので、仮にそのロイヤリティが5%とすると、著作者には1年間で4千万円の収入をもたらした計算になります。

しかし、このようなキャラクターの大ヒットというのは稀です。
はじめから大ヒットすると分かっていてふなっしーをデザインしてはいないでしょう。
デザインした後の営業努力も相当合ったと思いますが、それでも、そのキャラクターが市場でどの程度、認知され受け入れられるかは、市場に投入してみないと分からないからです。

わずか3万円で制作したキャラクターが、制作者の思わぬ形でヒットしたりして、もしかしたら数千万を超えるロイヤリティをもたらすかも知れませんが、同じキャラクターでも、全く売れなくて在庫を抱え、大損するかも知れないということも充分に考えられます。
代理店や出版社からキャラクター制作の依頼があったとした場合、そのデザイン料は、ほとんどの場合5〜10万円程度という感じです。
もちろん、売れっ子のデザイナーなどになれば、金額は跳ね上がりますが、一般のデザイナーなら、高くても、せいぜい20〜30万円というところが限界でしょう。

グッズ製造コストを抱える発注事業者にしてみれば、売れるか、売れないか分からないキャラクターを商品化するときは、原価を最小に抑え、純利益を大きくするためにも、キャラクターデザインを「著作権ごと丸々買い取ったほうが都合がいいのです。

そのため昨今は、その金額に「全ての知的財産権の譲渡」と「著作者の人格権の行使をしないこと」を求めてくるのが当たり前にさせられてしまっています。
しかし、これではキャラクターデザイナーの著作権は、もともとないのと同じです。

僕ら、末端の個人デザイナーは、自己の判断で、ロイヤリティーのほか、クリエーターとしての信頼性の獲得など、将来的に得られるであろう金銭以外のメリットも加味した上で、提示された金額との天秤にかけて、妥協点を見つけて受注契約しないといけません。

ある程度、著名なデザイナーは、制作料金を決める前に、どの程度商品化されて売上がどの位かと考えてデザイン料を決めます。

以前、くまモンをデザインした水野さんに奈良県が発注した2017年の国民文化祭ロゴのデザイン料「540万円」が高すぎると炎上したことがありましたが、国民文化祭というイベントの規模から考えると、著作権を譲渡という条件とすると妥当だと思われます。
なぜなら、ロゴの露出による経済効果も含め、関連グッズ売上は裕に一億円は超えると予想できるからです。

どこかの無知で無能な方が、税金を投入して支払う金額ではないとぬかしておりますが、デザインから発生する収入を考えれば全然安く上がるのかも知れません。
もし、そういうクレーマーを納得させたいなら、彼らのいうとおり、デザイン料を30万円〜50万円に抑えて、ポスターからグッズまで全てのロゴの入る制作物からロイヤリティーを支払う形にすればよいのです。
もっとも、奈良県は国民文化祭終了後に、おそらく同等以上の金額を、水野氏に支払うことになりますがw

さて、今回の東京オリンピックのマスコットキャラクターの賞金は、エンブレムと同じ「100万円」です。
デザイン制作費を無視したとして、この100万円が全てロイヤリティ5%だとしたら、マスコットキャラクターの売上は、たった2千万円ということになります。
ちなみに、北京オリンピックの公式グッズの総売上は、14億ドル(日本円で約1,577億円)です。そのうちのマスコットキャラクターの売上が10分の1としても、その金額は100億円以上です。ロイヤリティを受け取れる契約にしていたなら、制作者には最低でも5億円の収入が見込めるわけです。
つまり、オリンピック組織委員会は、本来デザイナーに支払うべき5億円もの大金が丸々手に入るわけです。

一般的に、そのキャラクターが売れるか、売れないのかは予測が出来ますが、火が付くかは正直誰にも分かりません。
発注者も、売上予測があいまいなキャラクターに対して、デザイン料を引き下げてリスクを避けようとすることも分かります。

しかし、デザイン料というのは、あくまでその成果物に対して支払われるべき労働対価であるべきだと思うのです。
著作権の譲渡を求める場合には、その「労働対価+ロイヤリティの見込み金額」で発注をかけるべきであり、ごく自然なことです。

著作権譲渡をしないなら、仕事をさせないいう今の風潮は、デザイナーをはじめとするクリエーターに対してのパワーハラスメントであり、発注者側の優越的地位の濫用にほかならないと思います。

近年のランサーズなどクラウドワークスタイルのデザインが定着するに従い、この傾向は益々顕著になってきています。

実際に実績のない個人のデザイナーは、貧乏で収入が少ないから、発注者側のいいなりに、このような不当な契約を生活のために呑まざる負えません。

今回のオリンピックのエンブレムにしろマスコットキャラクターの賞金も、あくまで「デザインした労働対価」です。
例えば小説の新人賞などでの賞金は、あくまで優秀な作品に対する評価を金銭に換えた文字通りの賞金です。
その後、その新人作家の本が出版されれば、作家には売れた部数のロイヤリティーが入ります。

極端な話、オリンピックマスコットの「出来、不出来」は問題ではありません。
オリンピックというマーケットがあれば、ある程度は確実に売れるマスコットです。これは「ど素人」のマーケッターでも十分に予想できます。
そういった市場価値を分かっていながらにして、わずか100万円で「あらゆる知的財産権の譲渡」と「著作者の人格権」まで奪い取る契約は、著作者から億を超えるロイヤリティ収入を、搾取する卑劣な行為であると感じます。

仮にも国家を代表する大イベントのオリンピック実行委員会が、法の抜け道を通るような犯罪行為すれすれのことを平然と行い、誰もそれを非難して糾弾しないというのだから、日本の著作権認知レベルは低いといわざるおえません。

もちろん、選ばれた作品を制作したデザイナーさんには、名誉が手に入るかも知れません。
しかし、今後の仕事に繋がるかどうかは分かりません。
それどころか、SNSに集まる無知で無能な輩から、謂われのない誹謗・中傷の的にもされてしまうリスクも多分にあるのです。

オリンピック東京大会2020は、プレゼンテーションでクールジャパンと高らかに謳い、アニメやゲームのキャラクターを登場させましたが、蓋を開けてみれば、末端のデザイナーを不当に虐げる日本というイメージを全世界に向けて発信する事になりかねません。

個人的には、このオリンピックの一連の問題を通して、著作権法を見直し、直ちに「著作権の譲渡を含む契約は違法とし、制作費+ロイヤリティを常識として定着」させるのが、キャラクタービジネス界において、WinWinなクリエイティブな社会づくりに必要だと感じています。

沢山実ると分かっている柿の種を育てた蟹。
柿の木の上に上がった猿たちに全部食べられてしまって物語が終わっていいのでしょうか?
残念なことに、僕らには力を貸してくれる栗も蜂も石臼もいません。
欲張りな猿たちが、心ある人間に進化することを願ってやみません。

2017-06-17 | Posted in COLUMNNo Comments » 

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